第73章 さようなら、霧雨
ぐるん、と視点がひっくり返るように現実に戻される。
起きた。
うん、夢なのか現実なのかいまいちはっきりしないけど、多分これ現実。だってベッドに寝てるし。
起き上がって顔を両手で覆った。
……夢の中のことがまだごちゃごちゃしている。でも、今の私はやたらと冷静だった。
……クッソ大変なことになった。あのご先祖様め。
隣を見ると実弥の姿はなく、もう起きているということがわかる。
リビングまで重い体を引きずって歩くと、実弥は朝食を食べていた。
「おはよう」
「おはよ…お前、なんかブウブウ言ってたぞ。疲れてるのか?」
「…ブウブウって何?」
「ブウブウ言ってたんだよ。いびきとか歯ぎしりみたいな。まあよく寝てたな。」
…よくわからない。一体何が言いたいんだ?ブウブウ??
………もしかして、陽明くんが言ってたことってこういうこと?
私の中で思っていたことと実弥の思っていること、多分今合ってないんだな。だからこの場合、実弥の言っていることは変でも何でもなく…。
「ああそう。」
「ん。」
こう言うだけで良い。首つっこむのもアレだし、別にいい。
ブウブウ…なんかいい響きじゃない気がする。気をつけよう。
「お前も飯食う?」
「いらない。」
なんかご飯食べる気分じゃない。私はふああ、とあくびを漏らした。…くそ、寝た気がしねぇ。マジでだるい。なんかもうお腹いっぱいだよ…。
「あーもう何もしたくねぇ〜!!働きたくねぇ〜!!」
私はそう言いながらフローリングに寝転んだ。
「おい、寝るなら布団入れ。」
「もう嫌だ。だめ。無理。」
「……ったく、お前は…」
実弥ははあ、とため息をついた。
そして諦めたようにさっさと仕事の用意を進めた。
そんな彼に私はフローリングを寝転がりながら声をかけた。
「今日の夜、話したいことあるから早く帰ってきてくれない。」
「はァ?今言えよ。」
「真面目な話だもん」
私が起き上がっていうと、実弥は黙った。
「早く帰ってきてね」
「…努力する」
「ダメ。誓って。」
「何でだよ」
「私が今日実弥が帰ってくる前に死んだらどうするの?」
そう言うと、実弥は目を釣り上げた。彼が冗談でもこういうことを言うのを嫌っていると知っていたから、わざと言った。