第70章 本当に最強?
私は仕事場のデスクに隠すように仕舞い込んでいたものを引っ張り出した。
あった。那由多の名刺。
……連絡は取っているけれど、メッセージ上のみ。
本当は直接話すのが一番なのだろうけど。
少し考えてから、その下にあった童男の名刺を手に取る。
…まずは外堀から攻めるか。
私はそこの番号に電話をかけた。
日曜の真昼間…連絡に応じるかはわからないけれど。
しかし、彼はすぐに電話に出た。
『もしもし…この番号にかけてくるってことは、だね。』
「はい。お久しぶりです。」
『何?』
ぶっきらぼうな言い方だけど、優しさが込められているのがわかる。
「今朝ニュースで見たのですが、DRIZZLEが行おうとしている買収の件についてでして…」
『……申し訳ないけど、それは俺もわからない。』
「え?」
『あれは…那由多が独断で踏み切った話。俺含めて会社の幹部でもわからない。そもそも話が進んでいたと言うことも知らなかった。』
……は?
童男でも知らない?そんなことあるのか?それとも、こいつが嘘をついているのか?
『君は買収を止めたいの?』
「えっと…私の知人がこの買収を止めようとしていまして、それで。」
『なるほど。…現実問題、あそこまで話が進んでいるのを止めることは正直難しいんだ。君のその知人…反対勢力を応援するしかない。反発材料を集めるしかないだろうね。』
「……そう、ですか。」
……那由多は童男にも相談しなかったのか。…となると、一人でここまで話を大きくしたってこと……。
童男に那由多を止めようとする意思は感じられない。これで二人のパワーバランスもなんとなく見えてきた。
「那由多さんに直接話を聞くことはできますか?」
『…反対派の人たちが何回もそれを俺に言ってきた。直接会社に乗り込んだ人もいた。……でも那由多は電話にさえ出なかった。とりつくしまもないって感じだよ。……君が話したいと言うなら可能性はあるかもしれないけど。』
「わかりました……可能性があるならかけてみます。」
『そうか。…俺たち幹部もそれとなく手を回してはいる。那由多の考えも探ってみるよ。ただ、あまり効果はないと思う…とその知人に伝えてくれ。』
「はい!」
そこで通話は切れた。続けて那由多にも電話をかけたが、彼は応答しなかった。