第69章 気づけば花嵐
春風さんの作り置きは一週間分ほどあって普通に驚いた。
冷蔵庫の中の食品は消費できなかった野菜から賞味期限がヤバめものまで全部使ってくれたみたいで、すごくありがたかった。
「これもんまんま。」
「……」
「ラタチューチュ?とかいうらしいよ。」
「……ラタトゥイユな。」
美味しいご飯というのに、実弥はどこかぼうっとしていた。
…帰ってきてからずっとこんな感じだなぁ。
どうしたんだろう。仕事で疲れたのかな。
「へえ、ラタチューチュ!」
「お前のヒアリング能力どうなってるんだ?」
「え?違った?」
まあ名前なんてどうでもいいや。明日には忘れてるよね!!
「……なあ…」
「んー?」
「お前、なんか困ってることとかないか?」
「ふぇ?」
唐突にそう聞かれ、私は首を傾げた。
(……何それ…今までそんなこと聞いたこと…あったけど!!こんな深刻そうに聞いてくるなんて何事!?もしかして……
…私ッ、試されてる!?!?!?)
稲妻が走るような衝撃。
この間0、5秒。
そして1秒にも満たない間に頭をフル回転させた。
「珍しくアナログの仕事引き受けたら依頼先のミスで仕事の納期が早まっちゃって消しゴムかけるの間に合わなくて困ってる」
そう言った後,実弥は何も言わなかった。でも消しゴムかけるのは手伝ってくれた。
あ、これ多分正解じゃなかったんだなとは思ったが、絵はしあがった。
「これ、アシスタント代…」
「…ありがと」
封筒に包んでちょっとした給料を渡した。いつものごとく受け取ってくれないかと思ったが今回はそうじゃなかった。
「あ、明日は絵の原稿出すから郵便局まで行ってくるね。」
「だッ………」
実弥は何か言いかけたが、グッと押し殺した…ように見えた。
「き、気をつけろよ…」
「あ、うん…」
……?
なんか様子が変だなぁ。まあいいか。うん、郵便局のついでにカフェでも行っちゃおうかな〜。