第64章 恨みは吐き出すもの
「あの〜、私、休むなら霧雨の家で休みますけど…」
私の実家は隣にある。わざわざおばさんの部屋を借りることもない。
「いいのよ。ごめんねぇ、みんな変なこと言って。悪いけど付き合ってやって。」
「はあ……。」
「あ、ベッド使っていいから。」
そう言っておばさんは軽く布団を整えた。
「でも…おばさんの部屋を使わせていただくわけにはいかないです。自分の家で休むので、気兼ねなくお出かけしてください。」
すると、おばさんは少し困ったように眉を下げた。
「もう、そんな遠慮しなくても…家族なんだから気をつかわなくていいのよ?実弥のお嫁さんなんだから。」
そう言われてしばらく思考がフリーズした。
家族。
ああ、そうか。私は…。
この人の家族になったのか。
「おばさんじゃなくて、“お母さん”でいいのよ。」
「……………。」
ああ、そうか。この人と私は義理の親子になったんだ。
全然頭が回ってなかったや…。
「じゃあ行ってくるから、ゆっくりしていていね。」
「…はい。お気をつけて。」
私がそう言うと、おばさんはまた困ったように眉を下げた。
それから力が抜けたようにベッドに横になった。
ああ。
(お母さんって言えなかったな)
少しだけ胸が痛んだ。
帰ってきた時には言えるだろうか。
部屋の中で一人、私はしばらくぼんやりとしていた。
けれど、久しぶりの静かな環境に耐えられず、すぐに眠った。
『ただの一度も恨んではいない』
『そう言い聞かせてきた』
『だから吐き出したこともなかった』
『吐き出せば、戻れないと思った』