第8章 あの中に
それにギョッとしていると実弥はバンバンとソファーの表面を叩き始めた。ブランケットが落ちる。
「何してるの?」
思わず声をかけると、勢いよく実弥が私の方を見た。
「…?寝ぼけてる?」
「……ッ」
その顔が歪む。
ほっとしたような、焦ったような、怒ったような、そんな感情が伝わってきた。
そしてぎゅうっと抱きついてきた。
急なことに驚いて固まっていると、実弥が小さな声で話し始めた。
「…どこ行ってたんだよ。」
「??自分の部屋。」
「……じゃあもう行くなァ。」
???
これは
…もしかして。
「起きたら私がいなくて寂しかった的な…??」
「今までの……全部夢だったのかって…。」
「………。」
不安げな声に思わずぎゅっと私も抱き返した。
「現実だよ。ここにいるよ。」
「…ん。」
「ごめんね、実弥ごめんね。」
「足りねえ。もっと謝れ。」
「…だから何でそんなに怒ってるの……って痛い痛い、力強すぎッ、ゴリラ!?あ!わざとやってんでしょ!ちょっ、痛いって!!私そんなに力入れてないでしょ!?ごめんごめん、悪かったって!!!」
痛いけど…。
寝起きの実弥可愛い…って気持ちの方が勝ってしまう。不安にさせて申し訳なかった。……痛いけど。
「よしよし、疲れてるみたいだからゆっくり寝て欲しかっただけなんだよ。わかってね。」
「……疲れてねえ。」
「うん。ごめんね。」
実弥がゆっくりと力を緩めてくれて、私はようやく痛みから解放された。
そんなこんなで、私たちは相変わらずだった。それでも、久しぶりに戻ってきた日常は確かに心を安らかに落ち着かせてくれた。