第61章 人間
環境は人間を作る。
言葉もわからない、文字の読み方を忘れ、ただただ自分に害を与える人間を傷つけた。
私は人間ではなかったのかもしれない。
到底、生きてはいけない環境で生きていくほど辛いことはないと私は知っている。
争って争って、生きていくことがどれほどのことか。
辛かったんだろう。
その気持ちに触れたからわかる。
陽明くんとの記憶も無惨の中にはあった。色鮮やかに染み付いていた。
私も、色鮮やかに染み付いた、仲間たちとの記憶がある。
……それを思えば、似たもの同士かな。
「何笑ってんだよ」
「え、あ、いや」
懐かしいことを思い出したからついにやけちゃった。
実弥はため息をつき、改めて話し始めた。
「…どんなに鬼舞辻がいいやつでも、俺はアイツが許せない。玄弥も……時透だって、何人も殺されたんだ。それに…霞守だって傷ついた。あんなにいい奴がだ。」
……実弥の気持ちがわからないわけではない。
私はみんなの気持ちがよくわかる。感情が伝わってくるから。だからこそ、悩ましくもある。
……私が感じているものをみんなも同じように感じ取ってくれればいいんだけどな。でもそれは難しいから言葉がいる。
言葉があるから喧嘩をする。
「俺はお前が大切だ。」
「……」
「俺以上に、大切だ。お前の言う“みんな”よりもな。だからみんなよりもお前自身を優先して欲しかった。」
だから、仲直りもできる。
「ははっ」
私は場違いに吹き出した。
「ダメだ、それは私には難しい。」
「ア?」
「これまでのことで思い知ったよ。私はみんなより自分を大事になんてできないって。ていうか実弥もそう言うところあるじゃん。」
「俺はお前ほどではねえよ!!!」
実弥が突然笑い出した私にキョトンとしていたが、もたれかかるのをやめて怒鳴り出した。
「だから、死なないくらいに頑張るよ」
「……お前、俺の言葉聞こえてるよな??」
「聞こえてるが???」
「…」
「命は捨てない。それは約束する。」
私が小指を差し出すと、実弥はなぜかプルプルと震えていた。
え?なんで?
なんでちょっと怒ってるの???