第60章 あの日を忘れない
優鈴とゴタゴタがあった後日、実弥と相談することがあったので今日改めて話している。
仕事にも復帰したので昼間は時間がなく、夜に話していたのだけど。
実弥がブスッとしている。
フランスで行われるプロジェクトに是非とも行きたいと言うと、こうなった。…おかしいな。いつもみたいに、好きにしろって言われると思ったんだけど。
「無理ィ」
「そこを何とか!」
「却下」
さっきからずっとこの調子だ。
「一週間かそこらで帰ってくるなら問題ねぇけど」
「あ〜2年は向こうに行きっぱなしになるね」
「じゃあ絶対ダメだ」
「ええ、何?寂しいの?」
「悪いか?」
「え、寂しいの????????」
私がギョッとして聞き返すと、実弥はだから何だとでも言うように鼻を鳴らした。
「当たり前のようなことを言うが。」
「うん。」
「お前、行ったとしたら二年間はフランスで一人だぞ。」
……………。
「行く…いや行かない…でも行くぅ………やだ、行きたくない、行く〜!!」
「いつまでそうしてんだよ。」
テーブルに突っ伏してぶつぶつ言う私に実弥が呆れていた。
「一人…一人か……まあいいんだけどさ。慣れてるし。」
「悲しいこと言ってないで今日はもう寝ろよ。」
「いや、この話題に決着をつける。」
私は目を閉じて悶々と考えた。
絵の仕事は楽しい。好きだけど。どうだろうか。
一人になってまで、やりたいことなのだろうか。
いや、一人になるのは二年間だけど。もし仮に行って、戻ってきたらどうなるかな。戻ってきた時、皆は今と同じように、私と仲良くしてくれるだろうか。
それに優鈴にもちょっと言われたけど、仕事の形態を変えるのも必要だろう。
…多分、プロジェクトに参加したらずっと仕事をすることになる。参加しなかったら仕事一筋の道から離れるだろう。
ああ、これターニングポイントってやつ?
「よし」
悩んでもむだな気がしてきた。そう思うと答えは案外あっさり出るものだ。
「…決まったのか?」
「決まった。寝る。」
「ア?待て、結論を教えろ。」
実弥が自室へ向かう私を追いかけてくる。