第59章 雪嵐
その後、風呂にも入り、さっぱりしたところで頭がよく働くようになったらしい。
実弥は頭を抱えていた。
「クッソ頭いてぇ……」
…まだまだ二日酔いは深刻みたいだけど。
「宇髄がお前を呼んだんだよな…悪い。」
「いや、別に…」
「時透と旅行中だったんだろ」
いつもの真面目な顔とは違い、締まりのないぼうっとした顔で言われた。
それでも言葉の重さは確かにあるように思えた。
「……どうして…」
「電話で、庭のルピナスが綺麗って言ったろ。それであそこだってわかった。前に甘露寺が行ったみたいで、その花の話をしてたからなァ。」
「…」
私の阿呆。
何ヒント与えてるんだ。バレてたのか。マジでか。
「鉄珍のジイサンに電話してお前の状況を教えてもらった。…時透と一緒だって知ってから、特に不安はなかったよ。」
「……鉄珍様、そんなこと一度も言わなかったのに。」
「まぁ、俺が言わないように言ったからな。」
実弥はソファに寝転びながら、痛む頭を抱えて話してくれた。
「悪かった。俺が阿国のことを隠さないで話さないといけなかったんだ。」
阿国を部屋に連れ込んだのは、阿国が勝手に無一郎くんと家の前で待ち伏せをしていたから。
そして、家に泊めたのは、阿国が家のことで悩んでいたから。そして、眠り続ける私のことを聞きたかったから。
実弥はちゃんと話してくれた。
「内緒にしていたのは……そうだな、お前への後ろめたさかもしれない。俺はお前の家のことに全然気づいてなかった。だから何も出来なかった。何かしてやりたいと思ったのかもしれねぇし、家のことで苦しんでいる阿国がお前と重なったのかもしれねぇ。」
「……」
「あとはな、俺は脅されたんだよ。泊めてくれないとピーーーーなことされたって叫んでやるって。」
「それは…うん、お疲れ様。」
実弥はその時のことを思い出したのか大きなため息を吐き出した。
「嫌なことがあったとき、お前が一人になりたがるのはよくわかった。」
「……すみません」
「いいよ。原因は俺なんだから。」
実弥は怒っていないようだった。…電話ではあんなに怒っていたのに、まさかこんなに優しいとは思わなかった。