第54章 痣、燃ゆる
マタニティブルーという言葉なら聞いたことはある。
結婚一つであんなにうだうだ言っていた私のことだ。まあ…こうなるのは必然だったのだろうか。
病院にいると人の気配がして落ち着かない。
何があっても先生がいるし安全かと思ったが、そろそろ心労が限界に近かったので、私は諦めた。
「病院は私に合わないみたいです。家に帰りたい、です。」
「…そう。そうね。病院にいるとたくさんの人に会わないといけないもんね。心を落ち着かせるなた家のほうが良いかもしれない。カウンセリングの先生にも伝えておきます。」
産婦人科の先生に相談すると良い返事がもらえたのでホッとした。
「何かあったらいつでもおいでね。」
「はい」
私は弱々しく返事をした。
実弥に退院を伝えると、迎えにきてくれることになった。
すぐに、とはいかなかったが三日後に無事病院から出た。
家について一旦落ち着き、私はソファに腰掛けた。
「ああ〜落ち着く。先生も看護師さんもいい人たちばかりだったけど、病院はストレスの温床みたいなものだわ…。」
力なくだらんとくつろいでいる私を見て、実弥はくすくすと笑っていた。
「お前、病院じゃそんなだらけた顔をしていなかったじゃねェか。帰ってきて正解かもな。」
「…なんか君嬉しそうだね」
「別にィ」
「……」
少々疑わしかったが、別にいいかと気にしないことにした。
「夕飯の買い出し行ってくるけど、お前は休んでろよ。」
「そうさせてもらう…。」
実弥が出ていく頃、久しぶりに会ったおはぎがかまえと言わんばかりに私の顔に擦り寄ってきた。
おはぎの顔を見た瞬間、一気に力が抜けて私はソファで寝てしまった。
今まで寝られなかったことが嘘のようにすやすやと眠れた。