第53章 心通わせ
と、入院していても休む暇が全くないまま時は過ぎた。
考えることが随分と多かった。
そのせいか、入院期間が見事に伸びた。
まず、夜に眠れない。色々なことを考えて整理していたら朝が来ていた…なんてことはざらだ。
ご飯が喉を通らないのはおそらく妊娠のせいではない。もっと違う理由だろうと言われた。
精神科の先生のお世話になる事態にまで発展し、私は一向に気が休まらなかった。
「ちゃん、しばらくお見舞いも控えようか。ね?」
主治医の先生に言われては仕方ない。
もう鬱病の一歩手前まで来ているらしく、病院の人は腫れ物に触るような扱いをしてきた。
実弥に報告したらすぐに行く、と連絡があったものの、先生の指示でしばらくは会いに来られなくなった。
彼はそろそろ職場復帰もしないといけないしいい機会かもしれない。
久しぶりに誰もいなくなった病室で、私は窓の外に目を移した。
もうすぐクリスマスだが、私にはその実感が全くなかった。
どうやらこのクリスマスが人生最後にならないようで、心底ホッとしていた。あの事件から改めて確認したが、発現したはずの痣はすっかり消えていた。
なぜ消えたのかはわからない。そもそも痣が消えるなんて…。
油断はできないと思っていた。痣が目に見えなくても、代償はしっかりとその体に刻まれている場合もある。
結局私は25歳で終わってしまうのかと思っていた。
事件後に体を珠世さんに診察してもらったが、そんなことはないと太鼓判を押された。
『痣に守られたみたいですね』
彼女は私の体を診てそう言った。不思議だった。普通は痣が体を苦しめるのに。
『痣が完全に消えてしまったのですから、もう無茶はダメですよ。』
最後はそう言われて私は素直に頷いた。
そう言われたのにも関わらず、今はこんなことになってしまっているのが申し訳なくて情けない。
休まなきゃ、と思えば思うほどいろんなことが頭をよぎっていく。
そんなことの繰り返しで、私は一睡もできない日があるほどだった。