第51章 リスクヘッジ
「あなたの勝ちよ」
アリスちゃんは静かに告げた。
童磨くんは納得できない、と言わんばかりにアリスちゃんに詰め寄る。
「どういうこと」
怒っているようだった。
「ひどいなあ。俺は誰よりもアリスを信頼していたのに。小さい頃から施設で育って、兄弟も同然なのに。」
「ちゃんはもう動けない。これ以上の仕打ちがいる?」
「俺は自分の手で彼女を殺したかった!!!」
アリスちゃんは童磨くんを前にしても怯えなかった。
…そうか。
二人とも、同じ施設で育ったんだ。じゃあ大学で出会う前からずっと……。アリスちゃんは、もうずっと、童磨くんと一緒にいたんだ。
「人を殺すと言うなら、童磨を殺してその後に私も死ぬ。」
「…は?君は俺よりも薄っぺらい友情を取るってこと?」
童磨くんの怒りは最高潮にまで達していた。
けれど、アリスちゃんは毅然としていた。
「違うわ。あなたに人を殺してほしくないだけ。」
「……がっかりだよ、アリス」
童磨くんはアリスちゃんの声が聞こえていないようだった。
「それは私の台詞!あんたも私ももうこれで終わりよ!!」
アリスちゃんが振り返る。
「お願いします!」
すると入り口の扉からは理事長とスーツを着た見覚えのない人たち、そして巌勝が姿を現した。
「我々は警察です」
見覚えのないスーツの人が手帳を出して言った。その声はやたらと体育館に響いた。
「詐欺師童磨。お前には逮捕状が出ている。」
「今回の一部始終は警備用の監視カメラに証拠として残っている。お前が買収した工事関係の会社員も逮捕した。全員お前に指示されたと吐いたぞ。」
「……」
童磨くんは黙った。アリスちゃんはほっとしたように一瞬目を伏せた。
「黒死牟殿…君もグルかい?」
「私は雇われただけだ。」
巌勝は呆れ返ったようにそう言い、体育館の惨状に顔をしかめていた。