第1章 日の下の霞
どこからか音が聞こえた。
顔を上げると、少し遠くに風車が見えた。
カラカラカラ…
風もないのに回っている。
「にゃあ」
間抜けな声が聞こえて、私は腕の中を見下ろした。ガラスがいたはずなのに、どこにもその姿は見えない。いつの間にか小さな猫がそこにいた。
その顔にはガラスの傷と同じ模様があった。
そこだけ毛の色が違う。
そして目は、どこかで見たような青色だった。
「にゃあ」
再び鳴いた。
「……ガラス?」
「にゃ〜」
呑気に鳴いて猫は私の傷をなめた。…でも、この顔の模様、どこかで。
カラカラ…
また風車が回る。
私は立ち上がってその近くまで歩いた。
暗くてよく見えないが、風車の側で誰かが立っているのがわかった。
「何してるの」
声をかけるとその人と目があった。
その顔には猫也ガラスとそっくりな傷があった。
「あ?待ってたんだろうが」
「?誰、キミ」
「はっ、そっからかよ。」
その子はぶっきらぼうに言葉を発した。
「まあいい。とっとと行くぞ。」
「?まだ歩くの?もう体中痛くてたまらないんだけど。休みたいの。ガラスもいなくなっちゃったし、この猫だけ連れてキミが歩いてよ。」
「いいから」
乱暴に腕を掴まれ、引っ張られるまま歩き出した。
「聞こえてんだろ、みんながあんたを呼んでるんだ」
「?」
「もうすぐだから」
暗い闇の中、随分と歩いた。
やっと止まったと思えば、暗闇の中に光のようなものが見えた。
「……」
その眩しさに目を細めていると、その子が腕を離した。
「なあ、あんたは笑って生きろよ。泣き顔なんて見たくねえんだ。」
「…?」
「ずっと、辛かったんだよな、色んなものを背負い続けて。」
「……そんなこと、ないよ?」
「そうなのかい」
「だって、楽しいこともあったから、それを無視して辛かったなんて言いたくないよ。」
その子はにこりと笑った。
「それが聞けて良かった。もう行けよ。」
「行くって、この光の中?キミは行かないの?」
「いいよ。ここでお別れだ。」
私は試しに片足を突っ込んできた。
その瞬間、向こう側から引っ張られた。
「元気でなァ」
最後にそんな声が聞こえて、私は光に吸い込まれた。