第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
安城殿をわざと苛立たせているのではないかと思ってしまうくらいに、お館様はなかなか姿を見せなかった。
隠の人がチラッとやってきて、『お仕事が立て込んでいらっしゃるので』とそれだけ言ってすぐに下がった。
離れた木陰からその様子を覗き見ていた。
…今の安城殿はだめ。
なんだかそう思った。安城殿に掴みかかったところで、私は勝てないから。
うろちょろと安城殿の周囲を徘徊していると、彼はまた息を吸い込んだ。咄嗟に耳を塞いだが、彼は私が予想していることとは違う行動をとった。
「雷の呼吸」
ちゃき、と音がした。安城殿は刀の柄に手を置いたのだ。
バチっと電気が走る。私はポカンとしてその様子を眺めていた。
「霹靂一閃」
走り出したかと思えば、お屋敷の屋根を派手にぶっ壊した。その騒ぎを聞きつけたのか隠の人がわらわらと集まり、屋根の上にいる彼に声をかけた。
「な、なにをされていらっしゃるのですか!!」
「おやめください、鳴柱様!!」
その発言に対して彼はビシッと隠たちに刀を向けた。
「言ったもん」
「は、はい?」
「お館様が出てこないなら暴れるって言ったもん」
長髪を指にくるくると巻き付け、彼は悠々自適に言ってのけた。とんでもなく不機嫌そうな顔とその発言に全員が固まった。
「子供ですか!?」
「お、おやめに!おやめにいいい!!」
「うわあああ!だめだ!早い!!」
「そもそもお姿が見えない!!」
「ぎゃあああ高そうなツボまで割った!!!」
安城殿は壱の型で暴れに暴れまわった。私は庭やお屋敷の屋根や柱ががめちゃくちゃになっていくのを傍観していた。
確かに速いけど、目に見えないことはない。隠の人たち、粉々になったツボや崩れ落ちた屋敷の瓦礫を前にわんわん泣いてるけど、安城殿は全く止まらないなあ。
「いやああああああ!助けて!助けてえええええ!!」
「ちょ、ちょっと、そこの女の子!!」
「うわっ、お前やめとけ!よせって!!その子は……!!!」
最終的に隠のうち一人が私の足元に縋りついた。他の人はその人を止めたが、安城殿の発狂を前に私の背後に隠れた。