第43章 傷が消えるまでずっとー過去の記憶ー
二人は出ていく直前まで言い合いをしていた。
「珍しいな。情を入れるなんて。」
確かに私の手を優しく握る人は初めて会った時とだいぶ態度が変わった気がした。
「どういう風の吹き回しだ?」
「鬼殺隊に入れるなら力を入れて面倒みるわ。」
「まさか、継子にするのか?」
「そうすれば文句言う奴いないでしょ?」
「いけないよ、まだ幼いのに…。」
「だから口出しはやめて。」
天晴さんはまた機嫌を損ねた。家を出るときにもくどくどと言われるので腹が立ったらしい。
「訳ありの子なんて大嫌いだけど、この子をバカにする連中がうざったいからは強く育てたいの!慎寿郎は甘いのよ!あんな仕打ちを受けてやり返さないし、この子をいつまでもぐうたらさせるんだから!!」
「お前は感情ひとつで子供を傷つけるのか!!この道に進ませる覚悟はあるのか!?」
「あるわ!!」
天晴さんはムキになって言い返した。ピリッと何か、痺れるものを感じて私は手を離し、距離を置くために後ろに下がった。
私は天晴さんのことを敵と認知し、臨戦態勢に入った。次に何かされたら引っ掻いて噛みつこうと思ったが、彼は慌てたように優しく私の元へ駆け寄ってきた。
「ごめんなさい。大丈夫よ。手を繋ぎましょう。来なさい。」
そう言われては何もできず、私は彼の手を握った。
「…お館様にも伝えたし、大丈夫。この子は連れていくわ。」
「そうか。お前が鬼殺隊としてこの子をかくまうのなら、継子である必要があるだろう…筋が通っている。」
「そうね。あんたの甘ったるい育て方も一つの筋ではあると思うけどさ。それは何もこの子のためではないのよね。」
天晴さんはにこりと笑った。
「傷が消えるまでずっと、この子は生きていかないといけないんだから。」
家を出ていくために一歩踏み出したとき、もう何も言ってこなかった。私は振り返って天晴さんの手を離し、屋敷に走った。
私はぴたりと慎寿郎さんの前で止まった。
「どうしたらいいのだ」
「…?」
「こういうとき、どうすればいいのだ」
彼は、力なく笑った。
「“ありがとう”と言えばいい」
「そうか、ア・リガ・トウ、」
「そうだ」
「アリガト」
それを言って私は天晴さんのところまで走った。もう振り向きもしないで、ただ彼についていった。