第43章 傷が消えるまでずっとー過去の記憶ー
「………」
私は答えなかった。自分の名前なんてとうの昔に忘れてしまっていて、もう思い出すこともできないのだ。
「あら、知らないの?」
「もうやめろ。この子は…恐らく声が出ないのだ。」
「決めつけんなって言ってんでしょ。」
天晴さんは私から目を逸らさずに言った。
「いい?あんたの名前は、霧雨。調査結果でそうなってんのよ。聞き覚えはない?」
「…」
「言ってみなさい、霧雨」
そう言われて、私は唇を動かした。
「き……り、さめ」
それだけしか言えなかったが、周りは十分に驚いていた。
「そ、そうよ!霧雨、あなたは霧雨!」
「き、りさめ、」
「霧雨」
天晴さんは私を指差した。私は天晴さんを指差して繰り返した。
「霧雨」
「あ、っ、ぱ、れ」
「あ、ぱれ」
天晴さんが自分を指差して言うので私も自分を指差した。
「……前途多難ね…」
彼はははっと笑った。
「ま、声が出ることは証明してやったから頑張ってね〜」
天晴さんはひらひらと手を振り、お屋敷から出て行った。
私はやはりぼんやりとして左れるがままにその様子を眺めていた。