第42章 身を尽くし
『どうして、お空は青いのですか?』
初めて柱になって産屋敷邸に呼ばれた時、何でも聞きなさいとおっしゃったのでそんなことを聞いたことがある。
周りの柱はクスクスと笑っていた。
『どうしてだろうね。』
お館様もお笑いになった。
ふと、それから10年ほどの月日が流れた時、私は再び同じ問いを投げかけたことがある。
その日は天気が良くて、やたらと暑い夏だった。鬼があちらこちらで活動し、私も忙しくしていた。本部に報告がてら休んでいくように言われたので、久しぶりに二人で話し込んでいた。
『どうして、お空は青いのでしょうか』
あの時笑ってくれた他の柱はもういない。いるのは、お館様だけ。このお方以外はみんな鬼殺隊を去り、逝ってしまわれた。
『どうしてだろう。』
もう空の青さをうつさなくなった目でお館様は答えた。10年前はなんとお答えになっただろうか。
私はもう、覚えていない。
変わっていく。変わっていく。
同じものなど何一つとしてない。
『私は時々、不思議に思うのです。たくさんのものが変わっていくのに、空は青いし、鬼殺の心は不滅です。』
『は面白いことを考える…。私は思ったこともないよ。そうだと信じて疑ったことがないからね。空の青さを不思議に思ったことなんて一度もないよ。』
『……』
お館様はいつもの微笑みを浮かべてそうおっしゃった。
『そうですね。確かに、疑うようなことではありません。』
『それでも、考えてみると面白いと思うよ。』
『……』
私はぼんやりと空を見上げた。考えたところで答えは出ない。だから考えない。誰も信じて疑わない。
『何かわかったかな』
『いいえ、何にも』
私は視線を落とした。目の前には優しいお館様。
好きか嫌いかと言われると、わからない。この人のことをそんな風に見たことはない。
ただ、他の人のお館様に絶対忠誠な様子を見ていると、たまによくやるなあと思う。
『お館様』
『なんだい?』
『お館様は、最後までお変わりにならないでください』
執着も未練もこの人にはない。でもこの人がこの人でなくなるのは嫌だと思う。
『それでは、お互いに長生きしないといけないね』
居心地が良かった。お館様といるうちは、心から楽しいと思えた。線引きもいらない。
本当の私でいられた。