第41章 可哀想な人
というわけでのり弁ピクニックではなく今日あったことを素直に話すことにした。
「巌勝とは無惨に連れ去られた件で関係が落ち着いたというか…。彼、店の常連だったみたいで、びっくりしたけど一緒に外で話をしたの。
……元上弦だったし、童磨くんが起こした事故を知っているかと思ってたんだけど、彼は何も知らなかった。
けど、童磨くんの素性は教えてくれた。童磨くんは宗教団体の教祖で、目をつけた人間は教団ごと潰されるんだって。」
なんだか他人事に思えてきて、笑ってしまった。
「私が潰れてスクラップになっても拾ってくれる?」
「潰れんなよ」
実弥はニヤつく私の頬をぐいっと引っ張った。
「いちゃい」
一言そう言うと素直に離してくれた。
「私が童磨くんのそばにいれば問題ないらしいけど、教団に行けばどうなるかわからない。そうしたら事故は起きないって言うのが巌勝の推理だった。」
「………それで、お前はどうしたいんだよ」
「…。」
私が少し言葉を止めた。
「行きたいよ。でも巌勝が行かせたくないって言った。」
「…だから行かねェって?」
「どうかな。」
童磨くんのことことはよくわからない。どうしてあれほど私に執着するのかもわからない。
ただ、ドロドロしたもう一人の私が彼をそうさせたなら…これ以上の悪行は到底許せない。
「私にとって巌勝の言葉は何より重いから。」
仮にも自分を殺した相手。あの恐怖は今でも忘れないだろう。恐怖を押し殺して彼と闘ったあの夜のこと。
初めて泣いた日のこと。
そして、私の涙を拭ってくれた手のひらを。
「何でだよ」
「え」
「俺だって今まで散々お前を止めたってのになんでそいつの言葉だけ響いてんだよ」
実弥はなぜか怒っていた。
「だって、私が唯一勝てなかった相手なわけで…今でも怖いもの。」
「……どうせ俺は弱っちいよ」
「な、なんでそうなるの」
拗ねたようにそう言うので、私は困ってしまった。