第5章 好いて好かれて
私が回復しつつあるなか、ある時実弥は悲鳴嶼先輩をつれてくると言った。
必ずここに来るから、待っていろと言われた。
なぜそんなに必死になるのかわからないが、今日こそはと言われたので私は朝から待っていた。
お昼前には病室のドアが開いた。
「悪ィ、遅くなった」
そして後から体の大きな人が。
悲鳴嶼先輩だった。すごく久しぶりなのに、夢の事を思えばそうは思えなかった。
「久しぶりだな。」
「お久しぶりです。」
先輩はにこりとぎこちなく微笑んだ。
「はは、確かに、もう元気そうだな。」
「まだまだです。」
私は起き上がりはできるがまだ歩けもしない体なのだ。ご飯もそんなにたくさん食べられない。
悲鳴嶼先輩は実弥と一緒にベッドの側の椅子に腰かけた。
「お花、ありがとうございました。目が覚めた時に見ました。」
「…そうか。大したものではないが。」
「ううん、すごく綺麗ですよ。嬉しかったです。」
私は窓に目を向けた。そこに鉢に植えられた花があって、まだ咲いていた。
「………」
「………」
「………」
それから誰も話さなくなった。
え、何この沈黙。
実弥あんたが連れてきたんだからせめて話繋いでよ。
いやいや無理だよ辛いって。痛いよこの沈黙誰か助けてお願いします。
そのとき、病室の扉が音を立てて開かれた。
「おい~っす近く寄ったから来、た……よ……」
あぁ、神様って、実在したんだな。
私はすがるように病室の入り口に立つ優鈴に目を向けた。しかし奴は私に見向けもせず言い放った。
「何これ修羅場?はいお疲れ様ー。」
「ちょっ、ちょっと待っ!!!!!!」
そのまま帰ろうとしたので私は優鈴を追いかけようと身を乗り出した。しかし、点滴の管もあるしそもそも私は動けない。
すんでのところで悲鳴嶼先輩がおさえてくれたから良かったけど、危なかった。
「…何をしているんだお前は。」
「え、何?僕のせいでそんなことになった?」
優鈴が振り返る。
私があははと笑うと、後ろに行き場のない手を伸ばす実弥が見えた。
私を助けようとして先輩に遅れをとったらしい。
「あはは」
もう一度笑ってみたが、実弥は笑わなかった。