第39章 誰かが見ている
無意識のうちに拳を握りしめていた。
どうして春風さんは苦しんでいるんだろう。大好きな人なのに大切な人なのに。
私は見てるだけで何もできない。どうして。
あんなに頑張ったのに。
私なりに頑張ったよね?何がいけなかった?どうしてダメだった?未来でもみんな苦しんでる。結局ダメだった。きっと私は誰も救えていない。
終わってない。
まだ、闘いは終わっていない。
どくんと心臓が跳ねた。体の温度が上がっていく。無意識のうちに握りしめた拳が痛かった。
「行かなきゃ」
気づけばそうぼやいていた。ふらりと病室の扉を開けた。
後ろから先輩とカナエが私を呼ぶ声がしたが、構わず外に出た。
病院の外に出るまで誰にも会わなかった。なので、さほど時間は掛からなかった。
次は私の番。
カナエと私の間に隙間はない。
それはわかっている。私の中に生まれた可能性は確信へと変わった。
病院の外に出た時、私は気配を感じて中庭に向かった。ここには誰もいない。人気が全くなくて閑古鳥が鳴いていた。
だから、一連の事件の犯人にはうってつけの場所だ。
「ずっと不思議だった。どうして犯人は誰も知らないはずの順番を知っているんだろうって。…どうして、春風さんから始まったんだろう、みんなが重症を負っているのに、どうして粂野さんの怪我は軽症だったのかって。」
目の前に立ち塞がる彼に向かってじっと睨みつけた。
「重症を負ったのは、柱だった人たち。」
でもカナエは無傷だった。
つまり。
「“私と仲が良かった”柱の人だけが重症を負った。」
春風さん、天晴先輩、桜くん、優鈴。
「そして、桜くんと優鈴は何かに気づいていた。何かを私に言い残そうとしていた。だってこの二人は犯人をよく知っていて、犯人もこの二人のことをよく知っていたから。理由はたった一つ。」
ニヤリ、と目の前の男は笑った。
何が面白いのだろう。
私はこんなにも怒っているのに!
「この二人は同じ鬼に殺されたからよ。」
頭から血をかぶったような鬼だった。にこにこと屈託なく笑う。
だから私も笑ってやった。この笑顔に、感情はない。
「まさか君だとは思わなかったよ」
彼は時代錯誤なデザインの扇を口元に持ってきて、クスクスと笑った。