第36章 許せない
『いや、なんかごめん』
昨日あったことなんて何も知らない優鈴から朝一番に電話が来た。どうやら心配してくれていたらしい。
『まさかお前がアリーと一緒にいるとか思わないじゃん。』
「アリー?」
「私の愛称よ」
側で会話を聞いていたアリスちゃんが仏頂面で口を挟んできた。ああ。ニックネームみたいなやつか。
『アイツ電話に出なくてさ…こっち戻ってきたときに会ったんだけど、携帯水没したんだって。意味わかんないよね。』
「うううッ!!!!!!」
『え、なんの発作!?』
心当たりしかないんですけど!?携帯水没!?絶対私が水ぶっかけた時じゃん!!
『まあ〜何があったとかよくわからんけどさあ。お前連絡くらい返せよ。みんな失踪したってパニックだったんだから。』
「そんな大袈裟な…」
『しょがないじゃん。お前、何しでかすかわかんないし…。』
優鈴はそこで言葉を止めた。
『……そうさせてるのはこっちか』
「?」
『ああ、何でもない。』
言われてばかりでは癪なので、私は思い切ってとある話題を振ってみた。
「ところでハルナちゃんとはどういう感じなの?」
『うるせーーーーーーーーーーーーーーーー』
うんざりしたような気だるい声が聞こえて、思わず吹き出してしまった。
そのとき電話の向こう側から彼以外の声が聞こえてきた。
『木谷さん?お電話ですか?』
『ちょっ』
「……ブフッ」
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい
まさかのご本人登場かよハルナちゃんといま一緒にいるんじゃんおいおいおいおいおいおいおいおい
「ダメだ、面白すぎる。アリスちゃんかわって…!!」
「別にいいけど」
彼女にスマホを渡してゲラゲラと大声で笑った。
「はあい、木谷。デート中だったのね。」
『アリー!!お前の横で笑い転げてるやつに電話かわってよ!!アイツ絶対許さない!!!!!』
アリスちゃんはスピーカーモードにしてニヤニヤと笑っていた。おかげで向こう側の声が私にもよく聞こえた。
『…アリー…?お、お友達ですよね、その人…』
『ばっ!ちょっと今黙っててよ!!!』
涙目のハルナちゃんを相手に真っ赤な顔で叫ぶ優鈴が簡単に想像できて、私とアリスちゃんは一緒になって笑い転げた。