第35章 頭痛の種
決して広くない部屋に二人で布団をひいて、あかりを消して寝転ぶ。
「私ね、夢を見るの」
「夢?」
アリスちゃんが突然そんなことを言い出した。
「いつも同じ人が出てくるの。その人と一緒にいると、何をしていても楽しい。」
「…男の人?」
「そう。」
どこか照れたように彼女は答えた。
「結婚するならあんな人がいいわ。」
「夢の中の人に恋してるの?」
「ええ。」
アリスちゃんは暗闇の中でクスクスと笑った。
「馬鹿馬鹿しく思うかしら。でもね、自分の気持ちに嘘なんてつきたくないの。」
「……」
「ちゃんもそうでしょう?…アイツいいやつね。ちょっと目つきが気に食わないけど。」
実弥のことだろうか。
「あなたがどうして彼を選んだのかわかった気がする。面倒なくらい馬鹿正直なやつね。」
「…うん。」
「羨ましいわ。私の好きな人は夢の中にしかいないんだもの。」
アリスちゃんはまた笑った。
「私、今日思ってること全部言っちゃった」
「よかったじゃない。スッキリした?」
「ううん。モヤモヤする。」
「じゃあ、まだ言い足りないのね。」
「多分…」
私はそこで眠気に襲われ、うとうとと目を閉じ始めた。
「話せるうちに話した方がいいわ。ある日突然、何も話せなくなる前に。」
アリスちゃんの言葉がオルゴールのように聞こえて、眠気に拍車がかかった。
「私は最後に彼に会えなかったんだもの。」
そこで、私の意識は落ちていった。