第34章 静かな暮らし
私の生活は一変した。
朝早くに起きて、アリスちゃんのお弁当屋さんの仕込みを手伝う。私は調理せずにおかずをパックに詰めるだけ。お昼頃になると次から次へとお客さんが来るので、たまにレジ打ちをしたりする。
お手伝いは午前中からお昼まで。あとは私の時間。
本職である絵を描く仕事もまだ続けている。依頼もかなり来ているのでそれをひとつひとつ消化していく。
夕方になると一段落するので、今度は私が描きたいと思った絵を描く。学生時代に使っていた古びた絵の具を引っ張り出して、窓から見える景色を描く。
窓の外に海がある景色が気に入ったので、絵に描こうと思ったのだ。この時間が一番楽しい。私は夢中になって描き進めた。
そんな生活に慣れる頃、私はつわりに悩まされた。アリスちゃんは時々背中をさすってくれた。
そんな時、私はとあることを思い出した。
『近いうちに会えないか?話がしたい』
スマホに残されたメッセージを見てあっ、と声を出した。
やば、忘れてた。そうだ。無惨から言われてたんだ。
「……」
思えば、ここに来てから誰とも連絡取ってなかった。うわ、たくさんメッセージ来てるじゃん。
……難しいなあ。
誰もいないところで一人で暮らしたいと思っても、そうはならないものだ。
ひとまず無惨に電話をかけてみる。出ないかと思ったが、奴はあっさりと出た。
『霧雨か』
「…久しぶり」
『ああ、随分と待った』
……前世の私が無惨と電話してることなんて知ったら卒倒しそうだな。こう慣れたのは陽明くんのおかげかな…。
『文面で送った通り、会いたいと思っているのだが…』
「わかった、じゃあ日時決めよう。」
まるで仲の良い友達みたいに、会う予定をたてた。