第27章 神様の言葉
陽明くんの母親としばらく無言で座っていたら、二人はすぐに戻ってきた。
「げっ」
母親の顔を見た陽明くんは顔を悲鳴をあげて歪めた。
「おかえり、陽明。もうご飯できてるわよ。」
「…へ?」
「お昼も食べずにお出かけしてたでしょう。居間にひやむぎとおにぎりがあるから食べちゃいなさい。」
ポカンとする陽明くんににこりと微笑み、彼女は立ち上がった。
「お友達も食べていって良いからね。それじゃあ、ごきげんよう。」
ひらひらと手をふり、頼りない足取りでどこかへと歩き去っていった。
「あ…あの人がご飯を作るなんて……」
陽明くんはうわごとのように呟き、ため息をついた。
「つもる思い出話もできたし、ご飯食べようか?…なんか用意してくれたって言うし。」
「私はもう帰る。仕事があるからな。」
「ああ、そうしてくれ。」
無惨は最後にじっとベンチに座る私を見落ろした。
「霧雨」
「…なに」
「お前はこちら側ではない。…こんな面倒な奴にいられたら面倒だ。それと、診断書は返してもらうぞ。」
言われた通り診断書は彼に返した。
「面倒な奴って失礼ね。」
「本当のことだろう?諦めの悪さは秀逸だ。」
「ハハッ。」
思わぬ言葉に吹き出してしまった。
「あなたもね。」
無惨は気に食わない、と言うように眉間に皺を寄せて去っていった。残された私と陽明くんはご飯があるという居間に向かった。
「うわあ、すごい量…」
陽明くんはキラキラと目を輝かせていた。
普段家族で過ごしているという建物まで向かう。ザ・日本家屋。窓も玄関も開けっ放しで風鈴がぶら下がっている。すっごい風流。
畳の部屋の大きなちゃぶ台の上には大皿にこれでもかと守られたひやむぎにとおにぎりがあった。
残暑が厳しい今の季節にはぴったりなメニューだ。
「わあい、デザートデザート」
庭には氷水につけられたスイカまで。陽明くんは大はしゃぎでキャッキャっと声を上げた。…住んでる場所からちょっと離れたところにこんな時代錯誤な家があるだなんて知らなかった。