第24章 私はどこの誰
私が着替え終わるまで巌勝は背を向けていた。…意外と紳士。
「案外平気そうだな。」
「どこかの誰かのおかげで未遂で済んだからね。」
服を着た私を見て呆れたように肩を落とした。
「一応聞くけど、ここどこ?」
「無惨様の自宅だ。私は秘書としてここで仕事をしている。」
「だーかーらー、場所を聞いてんの。自宅なのは何となくわかってるって。」
巌勝は今いる場所の住所をあっさりと教えてくれた。
………住んでるところからめちゃくちゃ離れてるな。
「私のスマホって返してもらえるの?」
「どこにあるかは私も知らん。」
「…じゃあ何でも良いから電話貸して。」
頼むと巌勝はポケットからスマホを取り出した。
「私ので良ければ。」
「ん。」
ロックを解除してもらってダイヤルを入力する。電話をかけた相手はワンコールで出た。
『もしもし』
「あ。もしもし春風さん?」
『はいそうですよ。』
電話番号を覚えている人はそうたくさんいないので、一番話が通じそうで手っ取り早い人を選んだ。
「『しばらく帰らないけど元気ですから探さないで』ってメモしてもらえますか?」
『はいはい………って、それ何なんですか?』
「私のことで何か騒いでいる人がそう伝えてください。それじゃっ。」
そこで無理やり電話を切った。すると秒でかけ直してきたので春風さんの番号を勝手に着信拒否に設定する。
「はい。」
「…良いのか。」
「良いよ。説明できるほど頭は整理できてないし。」
春風さんなら言った通りにやってくれるだろう。…ひとまず、今帰るわけにはいかないからな。
無惨の愚行をどうにかして止めないといけない。……どうやら、私がここにいるうちは大人しくしてくれるみたいだし。
あと、これは完全に私情だが。
もう少し、この男。
継国巌勝と話がしたかった。