第1章 日の下の霞
さようなら。
お別れするときはいつもこの言葉が付き纏った。
私は嫌いだった。さようならなんて言いたくなかった。
……。
………。
暗い闇の中をひたすら歩いていた。
もう全部終わった。無惨は死んだ。この目で鬼のいない世界を見た。もう十分だ。
「……。」
ここはどこなのかなあ。
暗くて前が見えない。
足が、痛いなあ。
右足の感覚がないなあ。
……。
血が出てる。
ゴポ、と音がした。
口から血の塊が出てきた。
体中から血が出た。
おかしいなあ、再生しないなあ、私、鬼なのに。
…鬼?
あれえ、鬼だっけ。人間じゃないっけ。うーん、もうどうでもいいや。
きっとここは地獄なんだ。もう私は死ぬんだし、例え何者でもいいや。ああ、人間ではないか。こんな血塗れの人間がいてたまるか。
……この傷、私の傷。
全部塞がったはずの、過去の傷。
痛い。痛いなあ。こんなものを背負いながら生きてきたのか。
地面に足が引っ張られると勘違いするくらい足が重い。縄で繋がれているようだ。
ついに私は立ち止まった。
膝が折れる。その場に崩れ落ちた。
「………」
動けない。動けなくなった。
このままじゃあ、地獄にも行けない。
『師範』
……?
『師範、目を覚まして、帰ってきて』
…?
崩れ落ちた地面がゆらゆらと揺れて、鏡のように何かをうつした。…これは…男の子?
髪の長い、目の青い、子。
『あなたに会えなくても、僕はそれでもいいから』
……
『……』
あれ、人が変わった。
傷だらけの、目つきの悪い子。
だあれ?この子。
『聞こえてるか?』
……。
聞こえてるよ、と答えようとしたが口からは血が出るばかり。
……。
誰なの、君たちは。