第18章 心が痛むか、体が痛むか
お店の中はほぼパニックだった。
暴れ回った母親はただ泣くばかり。
私が頭を下げて一つ一つ対処をした。割れたお皿の弁償。他の客への謝罪。店への対応。
優しい人たちだった。部屋の隅で泣きじゃくる母親のことをなんとなく察してくれたのか大事にはしないと言ってくれた。
もうそれ以上店にいられるはずもなく、私たちは店の外に出た。私が母親を無理やり引きずって外に出た。お金は私が払うと言ったけど、実弥と春風さんが払ってくれた。
「どうします」
お店の外、暗い空の下。春風さんが覇気のない声で言った。恐らくずっと母親の相手をしていたのだろう。…心中お察しする。
母親はまだ泣いていた。
「私が家まで連れて帰ります。」
「なら俺もついて行く。」
実弥が躊躇いもなく言った。
「来なくていいよ。お母さんと話したいことあるから今日は帰らないかな…どっかで泊まっていくよ。」
「いや、行く。俺だって話したいことはある。」
……まあ、あんなこと言われたらそうだよね。急に別れろなんて言われたんだ。
でも、それは私だって同じ。
「明日も仕事でしょ。早く帰って休んで。」
「関係ねェよ。」
実弥は頑なに譲らなかった。
しかし、そんな彼に手を伸ばすものが一人。
「グッ!」
「え、春風さん何を」
「………。」
無表情で春風さんは実弥に背後からヘッドロックをかけた。かなりの力をかけているらしい。実弥がギブアップと言わんばかりにバンバンと春風さんの腕を叩いていた。
「行ってください。もう私は疲れました。」
「……ひゃい。」
いつもにこやかな彼から笑顔が消えていた。よく見るとこめかみに血管が浮かび上がっていた。
…あれ、ひょっとしてかなり怒っていらっしゃる…???
「あなたの母親を悪く言ってしまったこと……申し訳ございませんでした。」
「…大丈夫です、私の方こそ巻き込んでしまってごめんなさい。」
私がいうと、にこりと微笑んだ。…目が笑ってないけど。
「ほら、行きましょう。私たちにできることはありませんよ。」
「ちょ、は…な、せ…」
実弥はズルズルと引きずられていった。
え、ちょっと待ってあの筋肉の塊のような実弥を引きずるってどんな馬鹿力??
…さすが元柱。
引きずられる実弥にどんまい、と思いながら私は無言で二人を見送った。