第97章 鬼霞
ああそうだ。
実弥は一人になりたい時に私を引き留めるんだった。
「どういうことか説明しろォ」
責めるわけでもなく、淡々と聞いてくる。
私が決断できないでウジウジしている間に優鈴が戻ってきてしまった。
「はーい、みなさんご注目。」
やたらとワクワクしたように見えるのは気のせいではないだろう。
私はひたすらに嫌な予感がするのに、彼には明るい未来しか見えていないらしい。
「ちょっと言いたいことがあってね。」
「なんですか?稽古は終わったのに…。」
「前に少し話したと思うけど、現世まで生き残った鬼がいるって話。」
途端にみんなに緊張感が走った。
「それって結局どうなったっけ?殺すか殺さないかでしょ?」
「宇髄先生が教室爆破させたからぁ、結論でなかったですよね」
阿国の発言に全員が宇髄先輩を振り返ったが当の本人はどこ吹く風で口笛を吹いていた。さすが元音柱。音程ばっちり。
「結論は出ていないけど、殺す派が多かったのは確かだね。まあ、それを踏まえて今から鬼に会ってもらう。」
優鈴もヘラヘラしていられなくなったのか真顔になった。みんなの反応から好ましくない未来が想像できたらしい。
だがもう引き返せない。いずれは考えなくてはいけないことだから。
鬼の話が進んでいくにつれ、隣に立つ実弥が私の腕を掴む手にぎゅっと力を入れたのがわかった。私は彼の指に自分の指を絡めるように強く握り直した。
足に力が入らなくて震えた。手まで震えたらみっともないと思って、誤魔化すようにそうしたのだった。
「大丈夫だ」
実弥は小さな声でそう言った。
私が言葉にできなかったことを、彼は察したらしい。
「ごめん」
いつものくせでそう口走ったが、実弥は何も言わなかった。さっきよりも彼の力が強くなって、手が痛いほどだったけれどただそれを受け入れた。
「鬼に会うって、鬼がここにいるってことですか?」
「そうだよ。しばらくは凶暴性が見られたから治療していたんだけど今は落ち着いているし、儀式の前にみんなに会ってもらおうと思ってね。」
優鈴はみんなを見渡した。
「落ち着いているとは言え鬼だ。一定の距離をとって接触は決してしないように。いいね。」
誰も何も言わなくなったタイミングで、優鈴は振り返った。