第95章 僕の師範ー昔の話ー
アマモリさんはでも、と続けた。
「俺もよう知らんけど、キリキリちゃんは君に渡す遺書を産屋敷に保管してもらおうとしてたんやて。
けど、遺書を届けるように頼まれたガラスくんは『本部の連中は信用できないから』って渡さんかったんや。けどガラスくんもキリキリちゃんと一緒に死んでしまったやろ。
そんでな、まあ、ガラスくんしかどこに隠したんかわからへんってわけなんよ…。」
それを聞いて頭が真っ白になった。
ガラス…の判断は正しかったのだろうか。だって本部に残されていた柱に向けた遺書はちゃんと僕も読めたわけだし。
……もうこの世界にはいない鴉に何を思ったってしょうがないけど。
「けど目星はついとる。俺は確かめに行けへんけどな。」
「ど、どこなんですか?」
「ガラスくんがキリキリちゃんの次に信じてた人のところや。」
それを聞いて、なんとなく1人の人物が頭に浮かんだ。
「ガラスくん、けっこう口緩いから俺になんでも教えてくれたんやけど…。」
「悲鳴嶼さんですよね。」
「ん?その人やないと思うけど。」
「でも師範と恋仲だったし…。」
アマモリさんは首をかしげた。
「ん~…まあ、俺は聞いただけやし。」
アマモリさんはははっと笑った。
「気になるなら行ってみい。…そんな単純な話じゃないと思うから、諦めることをオススメするけど。」
「いえ、絶対に見つけ出します。」
「そうか。なら気張りよし。」
僕は頷いた。
「ほなそろそろ行き。柱はやることがたくさんあるんやろ。」
「…はい、色々とありがとうございました。また来てもいいですか?」
「好きにしぃ。里も潰れてもうたし、君が次に来たときに俺がいるかどうかは知らんけど。」
そうか。アマモリさんもここを離れてしまうのか。
「師範のことを話せて嬉しかったです。」
「うん、俺も。ほなね。」
アマモリさんに手を振って元来た道を歩く。一度振り向いたが、その時にはもう彼はいなくなっていた。