第95章 僕の師範ー昔の話ー
どこに行くのかと思ったけど聞かなかった。
たどり着いた場所には、ゴツゴツした…明らかにそこらへんにあるような見るからに粗末な…岩が置いてあった。
「運命だった。」
僕が眉を潜めていると、その人は話し始めた。
「…可哀想やと思ったんや。刀鍛冶から石投げられて、怒鳴られて、追い出されたのを見て………。」
「………」
「嫌われもの同士、波長が合ったんか知らんけどな。まあ、運命やったんやろうな。俺はあの子に助けられたし、俺はあの子を助けた。
誰も認めへんかったけど、忌み嫌ってたけど、俺は良い子やったと思う。」
僕はもう何も言わなかった。
ただ聞いていた。
「あの子が死んでみんな清々した。良かったと胸を撫で下ろした。あの子が生きていると鬼殺隊に不穏な空気があった。
でもあの子が死んでから鬼の被害はでかなってしもたし、死人も増えたし、慌て出した。
慌てて慌てて、俺のところに来た。『刀鍛冶として認めるから刀を提供しろ』やってな。まあ断ったけど。
継子の君まで影響行くんちゃうかって不安やったけど…記憶なかったんやろ?」
そこで頷くと、彼は初めてにっこり笑った。
「不謹慎かもしらんが、良かったな。」
「…」
彼は石に触れ、さっと土をはらった。
そこには『霞柱』の文字が掘られていた。
「何も埋まってへんけど一応お墓。あとな…あの子の刀があってんけど、この騒動でなくなったんよ。」
「師範の刀…!?刀鍛冶の人に言えば、見つかる!?」
「それはないな。もう里中から刀は持ち出されてるし、見つかったんなら大事なってるわ。里長のクソジジイ、一応俺の刀知ってるし。」
それを言われて確かに、と納得する。…師範の刀、あったら形見になったのに。
とりあえず形ばかりの墓に手を合わせておいた。
伝えたいことはたくさんあったので心の中で伝えた。