第92章 夜露死苦
「あなたが何ものなのか、なぜ生まれたのか。俺にはわからないけどそれはあなたが見つければいいこと。」
陽明くんはそれらしいことを言って清々しく笑って見せた。
「全ての人間は自分が生まれた意味なんて知らないしどうでもいいと思ってる。あなたもそうあればいいんですよ。」
「…わ、わかった。とりあえず、どうしてかっていうのを気にするより、目の前の私の“これから”を考えた方が良さそうね。」
「そういうことです。遙子のことも放っておいていいのかも…。」
陽明くんは珍しく不安そうだった。
「しかし、霧雨にも霞守の妹にも遙子というものは関係しているのだろう?無視していいのか。」
「遙子は大人しい。危険な行為に及ぶこともないです。でもちょっと、今風にいるとしつこい。」
「しつこい?」
「遙子は何をやっても消えない、って言うことです。俺にも消し方はわからない。」
…?彼は消したいのだろうか。いまいちよくわからないな。
「遙子さんにいなくなって欲しいの?」
「…それを言うなら、俺は全員を消し去りたいよ。」
急に彼の目が冷たくなって、私は息を呑んだ。
「俺たちは役目を果たしたはずだから生まれてくるべきではないんだ。人生にもう一回があるなんて、本当は絶対にダメなことなんだ。」
「…でもこうして生まれてきた。」
「だからこそ、何かなすべきことがあるのではないかと、強くそう思うんだよ。俺はそれを鎮魂だと考えている。」
陽明くんは一呼吸置いた。
「問題はやり方だ。霞守神社も長年にわたって鎮魂をしてきたのに、阿国の魂のように暴れだすものも存在した。」
「…随分、現実離れした話ですね。」
「そう。こんなことが現実で起きていることこそがおかしい。だからなんとかしないといけない。」
陽明くんはじっと横たわる“私”を見つめた。
「その鍵が、ようやく今になって見つかったかもしれない。さんはショックだったかもしれないけど、未だかつてないラッキーが訪れてきたんだよ。」
その目は不思議な光を放っていた。どうやら彼には何か、未来が見えているらしい。
けれど私にはそれを感じ取る力さえ残っておらず、全く想像ができなかった。
ただ、とても重いものが肩の上に乗っている気がした。