第87章 嘘はつかないから
まあそんなことはあれど着替えれば実弥はいつもの優しい彼に戻った。
……はずである。
「おい前田ァッ!!お前っ、どういうつもりで俺の嫁にあの隊服寄越してんだクソがあ!!!」
『ヒイイッ不死川さん!?ナナナななな何で!?』
「テメェまだ怒鳴られ足りねぇのか!!」
『もももモモモモ申し訳ございませんでしたもうしません、ただ昔からアイドルだったちゃんのですねぇ、そのですねぇ…』
「アア!?昔はどうか知らねえが誰がそのアイドルを好きにして良いって!?」
「しゅみまシェンでしたああああ!!」
もはやここまで恫喝されているのを聞くと前田くんが気の毒だ。いったいどうして実弥が怒鳴っているのかはよくわからないがたった一つわかることはもうこの隊服を着ることはないだろうと言うことである。
そして天晴先輩と桜くん、春風さん、優鈴は部屋の隅でよそよそしくガン切れする実弥を見ていた。
「フーッフーッ」
実弥は電話を切ってもまだイライラしていて目が血走っていた。
「ねえ実弥くんっていつもこんな感じ?」
「怖すぎません?」
「もし対面だったら前田くんの命が怪しいね…!」
「くわばら」
確かにここにいない前田くんの命が心配なところではある。
でもそれよりここにいる実弥をなんとかしないといけない。
「実弥、大丈夫だよ。私は別に嫌じゃなかったし。」
「……」
「今度は最後に着てたデザインの隊服を前田くんに作ってもらうから。」
「もうアイツが作った服着ンなァ…」
「わかった、自分で作る。」
「…ん」
「落ち着いたかね」
私がツンツンと頬をつつくと、血走った目がだんだん柔らかくなってくる。
「ん」
実弥は短くそう言った。
「まぁでも、まさか初期のやつよこしてくるとは流石に思わなかったわねぇ。」
「そうだね。」
「…あーあ。今日ってなんか厄日?神社も怖かったしさぁ。」
すると優鈴が意味深なことを呟いた。何を言ってるんだろうと、私が疑問に思っているとそれに天晴先輩も便乗した。