第1章 死なせない
杏寿郎は鬼に蹴り飛ばされた女性を咄嗟に抱き止めた。
「君!大丈夫か!」
鬼に傷付けられた左肩から血が溢れだし、左上半身がじわじわと赤く染まっていく。
蹴られた際に内臓もやられたのか吐血もしており、呼吸も荒い。
「はぁ・・・はぁ・・・きょ、じゅろ・・・ごほっ、ごほっ・・・」
「無理に喋るな!」
そっと満身創痍の華奢な身体を横たえ、手拭いを細く裂いて肩の傷に巻いていく。
視線を感じて目を向けると、血の気の失せた白い顔で彼女は微笑んでいた。
「良、かった・・・やっと・・・助け、られた・・・」
昇り始めた日の光に照らされて、透明の涙が幾重も流れ落ちて光る。
今はそんな場合ではないのに、その姿がとても美しいと思った。