第8章 煉獄家
数日後、名前は杏寿郎と共に彼の生家を訪れる事となった。
「着いたぞ!」
「お、おっきいお家ですね・・・」
杏寿郎の背中からゆっくり下ろされて名前が彼の隣に立つと、目の前には立派な門がそびえ立っている。
来る途中も延々と続く塀に目を引かれたが、兎に角大きくて立派な家に圧倒されて、名前はポカンと口を開けた。
「兄上!」
声のした方へと振り向けば、杏寿郎にそっくりの男の子が此方へ向かって駆けてくる。
「千寿郎!」
「兄上!お帰りなさい!」
破顔して両腕を広げた杏寿郎に、頬を紅潮させた千寿郎が飛び付く。
弟を抱きとめて「ただいま!」と笑う兄に、弟は瞳をキラキラさせて兄の無事の帰還を喜んだ。
兄弟の再会に水を差す訳にはいかないと、名前は杏寿郎からニ、三歩離れておとなしく待った。
「兄上、そちらの方は?」
「うむ!彼女は名前。俺の命の恩人だ!」
「は、初めまして。苗字名前です」
千寿郎の視線を感じた名前は、少し緊張しながらペコリと一礼した。
「貴女が名前さん・・・」
名前をじっと見つめ、千寿郎は杏寿郎から離れて彼女の正面に立つと、深々と頭を下げる。
「兄上の命を救ってくださり、本当に有難うございました」