第7章 協力者
顔を上気させ、プシューと頭の天辺から湯気が立った状態の名前を、杏寿郎はじっと見つめる。
名前の背を支える腕に、彼女のドクドクと速すぎる脈動を感じた。
「よもや・・・そんな顔をされると勘違いしてしまいそうだ」
「え」
杏寿郎は羞恥から俯こうとする名前の顎に指を掛け、自分に向けさせて彼女の瞳を覗き込んだ。
けれども名前はウロウロと視線を彷徨わせ、中々目を合わせようとしなくて。
「名前」
少しだけ声を低くして名を呼べば、名前はビクッと肩を跳ねさせて恐る恐る杏寿郎と視線を合わせた。
「はわわ・・・ち、近・・・」
「うん?」
名前の潤んだ瞳に映る自分の顔が、少々悪い顔をしている様に見えるのは気の所為だろうか、と杏寿郎は考えつつ。
五日近くも寝たきりだった人間が、支えも無く身体を起こすのは大変だからこれは必要な行為である、と彼女からの要求は聞こえない振りで通した。
「それで?何がそんなに悲しかったのだ?」
「・・・」
杏寿郎の問いに、名前は無言のまま眉をハの字にして唇を噛んだ。
「俺には話せない事か?・・・君にとっての俺は、信頼するに足らぬ人間なのだろうか」
「そっ!・・・そんな、事、無いです・・・」