第6章 彼女の力
その日、杏寿郎は任務中に時戻りを体験した。
鬼に襲われている女性を助けたのだが、その女性は無傷という訳にはいかなかった。
右肩から腰までをバッサリと鬼の爪で切り裂かれており、杏寿郎は自分がもう少し早く駆け付けていればと眉を潜めた。
後から到着した隠に現場の諸々を任せ、再び巡回任務に戻ろうとしたのだが、ふとした瞬間、杏寿郎は煉獄家の門の前に立っていた。
「兄上?どうかなされたのですか?」
火打石を手にした弟の千寿郎が、不思議そうに首を傾げている。
「よもやよもや・・・」
おそらく名前がまたあの不思議な力を使ったのだろう。
これは間違いなく時戻りだ。
ここ最近、彼女は度々時戻りを引き起こすようになった。
力の制御が出来ないらしく、いつ発動するかは彼女自身も分からないのだという。
そして不思議な事に、杏寿郎だけは離れた場所に居てもそれを察知出来た。
「だが、今回は助かったな。これであの鬼の先回りが出きる!」
「兄上?」
「うむ!千寿郎、行ってくる!」
「は、はい!行ってらっしゃいませ。どうぞお気を付けて下さい」
背後にカチッカチッという切り火の音を聞きながら、杏寿郎は走った。