第8章 ふたりの嘘
まあ父親は爺さんとは違って単なる助平親父だから大した地位には就けてないみたいだけど、と遥さんが続けた。
そう考えると色々辻褄が合う。
先程私が和泉さんと遥さんを間違ったのもあながち的外れでは無かったのだ。
「お二人は仲が良くないんですね?」
「間違いではないな。 だけど……工藤の事、自分で確かめろよ。 ホント言うともう近付けさせたく無いがな。 それじゃあんたみたいのは納得しないんだろ、どうせ」
「遥さんは………だから私を?」
「先週言った」
もう一度聞きたいのか? そう言って私の腰を引き寄せた。
片腕できつく抱き締めてくる。
海沿いの停船している船が集まる港。
両脇にイルミネーションが輝いている。
もう薄暗く、影の重なったカップル達の姿がちらほら見える。
私たちみたいに。
「遥さ……こんな所で」
息が苦しいのは胸に押し付けられている彼の体のせいだけじゃない。
「周りも似たようなもんだ」
だから会いたくなかった。
遥さんに会う前に、和泉さんに会いたかった。
そしてもしも声が聞けたら、もしも抱いてくれてたら。
そしたらもう全部、私は和泉さんのものになると思ってた。
そう思いたかった。
確かに和泉さんに会った、でも。
あれはこんな狡い事を考えていた私への罰だ。
腰の辺りにあった手が肩を撫でてゆっくりと下に下りてきた。
「……ぁ」
背中を伝い、腰の窪みに添わせてお尻と太腿に。
そしてまた肩を抱いて下へと。
優しく何度も。
少しの間、忘れてた。
体と一緒に吐息も温まってくる。
「……旭、一人でしてただろ。俺のいない時」
「……………」
してません、そう言いつつも一気に顔が火照った。