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Honeymoon

第2章 不穏な男


体が横向きのまま顔だけを彼の方へ向ける。
私たちの会話を聞いてた?
そして私、どこかで彼の名前を言ったっけ?

その男が静かな様子で続けた。

「色々、不思議に思わないのか? 奴についてあんたはどれ位知ってる?」

「………」

話の内容よりも反射的な行動だった。
咄嗟に掴まれてる腕を解こうとした。

「ッ!」

その瞬間ぐ、と余計に強く力を込められ思わず眉をしかめた。

「自分の一生を左右するような事をそんなに簡単に決めていいのか」

さっきから、この人は何を言ってるのだろう。

「奴についてあんたはどれだけ知ってる?」

もう一度彼はそう繰り返した。

長めの前髪から黒い瞳が射る様に私を見ている。


「…………」


思い当たる事は、ある。

彼が同じ会社というだけで面識のあまり無い私にいきなり付き合いを持ち掛けた事。
3度目のデートでいきなりプロポーズをされた事。
直後の出張でろくな話し合いも無くヨーロッパに行ってしまった事。
挨拶もおろか、彼の家族構成もまだ知らない事。
彼が私の体を求めない事。


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