第7章 その『理由(わけ)』
「遥さん」
ぽつりとその名前を呟いた。
不思議な感覚だった。
昨晩の、彼と過ごした時間。
落ち着かなくて感情が動くのに心はどこか安らいだ。
それに……
思い出すと肌が熱を持つ。
私の体で彼に触れられてない所なんてもう僅かだ。
『私にこうするのは、和泉さんへの当て付けなんですか』
最初から、彼の和泉さんへの悪感情に気付いていた。
全て否定はしない、少なくとも最初は。 だけど、と遥さんが続けた。
『これ、この体と顔と頭が俺。それが旭を欲しがってる、ただそれだけ』
見えない焼き印を押されたみたいだ。
一日経ってその部分が主張をし始め私を困らせた。
昨晩遅く私がタクシーで帰る直前にドアの前で声を掛けてきた。
『また連絡するし、いつでもしてくれていい』
だけどそんなのは、それ自体が和泉さんを裏切っている。
確信があった。
遥さんはあの動画や何かを使ってどうこうするつもりは無いのだと。
あの人はそこまでの人じゃない。
もう遥さんとは会わない方がいい。
もしも和泉さんが私に何かを隠していたとしても、それとこれとはもう別だ。
暫くしたら忘れて冷える。
自分の肩を抱き締めた。
時間が経てばきっとうまくいく。
あんなのは気のせいだったのだと、この疼きも何処かへ消えて無くなるのだろう。