第7章 その『理由(わけ)』
工藤和泉さん。
私はあの人の事をそれ程知っている訳では無かった。
それでも昨日、初めてのデートでお付き合いを申し込んでくれた。
「んー…なあに? 旭。休みの日の朝からノロケ?」
まだベッドに入っている香織が寝惚けた表情で画面に映っている。
お化粧も落とさないで寝床に潜り込んだのか、アイラインも滲んで美人が台無しだ。
とはいえもういい時間なのに、部屋着でごろごろとカフェオレなんかを飲んでる私も変わりはない。
「もー、また二日酔い? いくら何でももう11時。 …じゃなくって。ノロケじゃなくって、私は相談してるんだけど」
気儘な一人暮らし。
朝は少しゆっくりしてから自分のペースで家の事を始める、それまでの自由時間。
「違うよ、旭はいつも相談なんかしない。自分で決めて終わった後に泣いたり喚いたりするんだよ」
「喚きはしないよ、けど。 でも」
「付き合ってって言われたんでしょ?」
「でも私、いきなりでまだよく分からなくて。…ブランクも長いし、まず友だちとしてならって」
「理由がないなら断る理由も無い! 香織が背中押したげる!」
じゃ、オヤスミ!!そう言って元気よくSkypeがぶちっと切れた。
最後の方、かぶせまくられて会話になってなかった。
「だからもう昼なんだってば……」
そんな風にボヤくもおそらく香織は間違ってない。