第2章 不穏な男
こんなごちゃごちゃしたバーみたいな所で、ナンパ目的だと思われるじゃないの。私はそう言い非難がましい目を彼女に向けた。
私の幼なじみ兼悪友でもある奔放な性格の香織。
胸が開いたリブ編みのカットソーに短いスカートなんかを履き、高いヒールの脚を組んでいる。
「もしそうなってもバーチェラパーティだと思えばいいじゃない?」
「あのね、バーチェラってここは日本だし私たちは女だし、しかも婚約してるのは私の方なんだから」
そう責めるも屈託なく笑う香織にため息をついてからチラリと時計を見た。
まだ午後9時。
先程からカウンターの端の方から視線を感じる。
男が女を見定めるような、一種独特の。
香織を見ているのだろうか。
だけど私には怖くて確かめる事が出来ない。
きちんとしたバーならともかく、パブやクラブと混ざった様な雑多な飲み屋。
店内は薄暗く、轟音みたいにお腹に響く音楽。
そもそもこんな場所に女性だけでいるなんて良くない。
「ねえ、香織。 やっぱりここ……」
「だってえ、あたし、嬉しくて。 中学からの腐れ縁だけだと思ってた旭(あさひ)が若くして会社の重役さんと結婚だなんて」