第6章 二夜…裏腹な私と彼
「和泉さんに、罪悪感を持つ必要が無い……?」
「ああ。 ここは奴が元々よく来る店だ」
彼が片手でビールグラスの広い口を持ってカウンターに置く。
「和泉さんが……?」
こんなガラの悪い場所に?
ナンパをしている男性、それを待っている女性。
またはそれらの逆。
死角では身を絡ませ抱き合っている男女。
週末のフロアが広く薄暗いこのバーはそんな人達で溢れている。
和泉さんとのデートでこんな所に来た経験は勿論ない。
「どういう事ですか?」
私の問いに彼は肩を竦めた。
「言葉通り。 少なくとも奴は俺よりは遊んでんだろ」
「……………」
「別に信じたくなきゃそれでいい」
信じるも何も。
あの和泉さんが?
まるで雲を掴むような話だった。
「それであと、なぜ、あなたみたいな人が私を?」
「ん?」
気乗りし無さそうに放り込んだチーズは彼の口にも合わなかったようだった。
摘まんだそれを少し嫌な目で見てお皿を脇に避けている。
「た…遥さんならいくらでも、もっと素敵な人が」
「そりゃ有難い言葉、けど旭。 どうにかして俺から逃げようと思ってんだろ?」
こちらの思惑を見透かされ、ぎくりとして体が強ばった。