第4章 一夜…恐れと嗜虐
ぶちゅ、そんな水音がした直後に押されるのを繰り返し、再び呑まれそうになる。
だけど今は男が私を見ている。
微かに空いた唇の合間に彼の指が触れて柔らかく滑った。
「は…ん…ぁあ」
私はどんな表情をしているのだろう。
こんな声みたいに、どこか甘えて媚びた様な視線を送っている?
そこから逸らすために男から目を外そうと横を向いた。
殺風景なベッドと飾り気の無い棚しか置いていない部屋。
その時私の目に入ったのは、唯一そんな中で場違いに装う自分の左手。
薬指にある指輪だった。
そしてその指輪は今までずっと、一部始終を見ていた。
「……だ、ダメ」
咄嗟に手を伸ばして彼の胸を押した。
男が何か言いかけたがもうやめて、と強い口調でそれを遮った。
「あ、待って、いやぁ!」
その手をぐいとベッドの私の両端に押し付け体を起こした男の腰が私の脚を大きく割った。
左右に首を振り続けて抗う私をまた完全に無視して。
「あさ」
「和泉さん、…和泉さん!!」
泣きながらその名を大きな声で呼んだ。
男に言われた事などどうでも良かった。
だってこんな行為になんの意味があるのだろう?
私には分からない。
分かりたくもない。