第11章 朝を待つ間
今回婚約の話を聞いて少しはマシになったと思ってたんだがな。顎の下で指を組みながら首を振る。
「……昔、遥さんが暴力事件を起こしたって聞きましたが」
「そんな事まで知ってるのか……あれは…仕方が無かった。 和泉が大学院生の時に家庭教師先の少女を襲ったのが理由だ。 入試目前のことだったから、あの子の軽率さは否めないがね。 結局、遥の卒業が一年遅れ、それを期に家を出た。 だが付け加えて言うとね。 和泉を殴って怪我させたのは遥だけじゃ無い」
『あのジジイさえ居なかったら』
和泉さんはそう言っていた気がする。
「私もこう見えて体力には自信がある方だ。 肋骨にヒビが入って暫く和泉は苦しそうにしてたよ」
そう言って肩を竦めた表情はやはり遥さんと似ていた。
この人は何の思惑もなく、遥さんや私の事を心配してくれているのだろう。
少しの逡巡の後、口を開いた。
「お気遣い深謝いたします。 それでは……」