第37章 嫌な予感
杏寿郎との任務同行の際に桜が姿を見せるようになってから 、
『恐ろしい炎柱の嫁が隊服を着て任務に同行している』
『その嫁に手を出すのは勿論、用なく話し掛けてはならない』
『嫁の方から触れてきた場合は目を閉じていなければならない』
…という妙な噂は任務を重ねる毎に爆発的に広まっていき、その内容を聞いたお館様は思わず笑みを溢した。
そして一ヶ月経った頃、次はしのぶの任務に同行する事が決まった。
そんな矢先、縁側にいた杏寿郎に要が一通の文を持ってくる。
杏「…………………。」
隣で休憩をとっていた桜は杏寿郎の纏う空気が変わったのを感じ取って首を傾げた。
「杏寿郎さん…?」
杏「ああ…今夜の任務について話したいとお館様から俺個人に呼び出しがかかった。君は少し早いが今夜から胡蝶の任務に同行するようにと書かれている。お館様の元へ行く前に君を蝶屋敷に届けよう。」
「私が今夜の杏寿郎さんの任務に同行しない理由は…それってまさか……、」
杏「ああ。お館様から話を聞くまで仔細は分からないが十二鬼月が相手かも知れないな。」
桜は冷や汗を流すと急いでお守りの白石を持ってきた。
「これを持っていて下さい。」
杏「ありがとう。そう心配するな。」
そう言うと杏寿郎は相変わらず太陽のような笑みを浮かべて桜の頭をぽんぽんと撫でた。
しかしいつもなら安心する筈のその体温が酷く儚いものの様に感じて桜は瞳を揺らしたのだった。