第7章 炎柱様への提案
台所に入ったところでふわっと空気を揺らして人の姿に戻る。
「……えっ?」
桜はぺちぺちと自身の口元を触った。
「濡れてない…。」
しかし、ぽんっとねこの姿になると 残念なことにそちらはまだ味噌汁で濡れていた。
また人の姿になると眉尻を下げて棚に近付く。
「人の姿で洗えたら楽だったのに…。何か使えそうな容器ないかな……。」
桜は桶を見つけるとパッと顔を明るくさせて、水を貯めていった。
(この時代、水道あるんだ…あってよかった……。)
水を貯めた容器を床に置き、猫の姿で口をつける。
(杏寿郎さん怖くないんだからずっと人の姿でいたいよ…もどかしすぎる……。……汚れとれたかな…?)
そう思いながら顔を上げるも、適当な布巾がない。
桜は仕方なくぷるぷると頭を振った。
(まるで本当に猫になったみたい……。)
人としての何かを失ったような複雑な心境になり、桜は情けなさそうに頭を垂れたのだった。
―――――――――
千寿郎に襖を開けてもらい居間に戻った桜は、恥ずかしそうに俯きながら席についた。
その様子を千寿郎は眉尻を下げて見守ってる。
(うー…まだ口元濡れてるの分かるよね…。ご飯は冷めちゃうけど後で人の姿になってから頂こう…。)
桜は視線をちらっと上げて杏寿郎を見つめると、自分の使命についてどう伝えるかを考え始めた。
杏寿郎は元気におかわりをし続けている。
(私にしか出来ない事だ。術を持ったまま黙っているなんて許されない。それは絶対に駄目…。)
(あの血みどろの世界に踏み入る覚悟は決めたけど、………でも、現実味のない説明しづらい話がたくさんあるな…。)