第6章 未来の鬼と大正の鬼
千(わすれて、る…?)
どういう事だろうと千寿郎は口を開きかけたが、ある迷いが頭をよぎって思い留まった。
―――本当に質問していいのだろうか…
ちらっと桜を盗み見る。
桜に人を安心させる ふわふわとした独特な雰囲気が戻っている。
それを見て千寿郎は頭をふるふると振った。
「千寿郎くん、…ぎゅってしてもいいかな?」
そんな様子に気が付かずに桜は照れた声を出す。
それに千寿郎が眉尻を下げてこくりと頷くと 予想外な反応に桜は目を丸くし、すぐにふわっと花のように笑った。
「ありがとう!」
ぎゅっと抱きしめられながら千寿郎は眉を寄せた。
千(弟さんの温もりを探しているのかな…。)
柔らかく頭を撫でられ、千寿郎はきゅっと目を閉じる。
こんな状況なのに、相変わらず桜の腕の中はぽかぽかとして暖かかった。
千(………出来ない…。弟さん…ごめんなさい……。)
千(ろくに慰められないのに、また桜さんにあんな顔をさせたくない…。)
本当の弟に悪いと思いながらも、千寿郎はそう思ってしまった。