第6章 未来の鬼と大正の鬼
千寿郎は慌てて手ぬぐいを出して渡そうとした。
だが、桜は気が付かない。
「私が名前を呼んだから…、その人機嫌悪くなって "他の男の名前出すなんて悪い子だ" って。弟だって言ったのに…!」
普段の姿から想像できない桜の怒りを孕んだ声に、千寿郎は目を大きくした。
「そう言ってしばらく出かけたあと…弟を連れてきたの……。」
―――『もういい。』
「頬がひどく腫れてた。暴力振るわれて怖かっただろうに、私を見つけると真っ先に心配してくれた。」
段々と桜の体が震えてくる。
「みのるはその男に背を向けて私を縛る縄を解こうと走ってきたの。……逃げれば…よかったのに………。」
―――『思い出すな。もういい。』
ユキは届かない声を出し続ける。
「……その瞬間……その人は、 "他の男の名前を呼んだら君の目の前でこうするからね" って、呟いて…その人、手に刃物持ってて…それで………っ…」