第33章 準備期間
杏「この部屋には鏡がないからな。俺が教えてやろう。こんなにも真剣な話をしているのに君は相変わらず俺を煽るような欲情した顔をしている。初めて会った男が俺以外の男ならこの顔は俺には隠すのにも関わらず、その男にだけは真剣な場でも易々と晒していたという事か。」
「ま…待ってください…そんな想像の話で、」
杏「確かに想像の話だな。それにも嫉妬する俺はおかしいのだろうか。」
杏「君がおかしくさせたのではないのか。」
その言葉を聞くと心と裏腹に赤らんでしまっていた顔は青くなり、逃げようとしていた事を忘れて杏寿郎の胸にしがみついた。
杏「…………桜?」
その様子に杏寿郎が思わず怒りを忘れて心配そうな声を掛けると桜の体は分かり易く力が抜けて崩れ落ちそうになり、杏寿郎は慌てて支える。
「…やっぱり……………、」
桜は小さな声を出した。
「やっぱり…、杏寿郎さんだけですよ。全然おかしくないです。そんな程度の嫉妬ならいくらでも受け止めます。何でもします。傍にいて下さい。」
桜の怯えたような安堵したような感情が複雑に入り混じった声にすっかり冷静になった杏寿郎は困惑しながら眉尻を下げて優しく抱き締めた。