第32章 ※ちぐはぐな心と体
「……ッ!!…!………ふっ…ぅ…!!」
杏「今夜は思い切り泣いて拒んで構わないぞ。その姿も好ましいのでな。」
口を解放されて目を開くと杏寿郎の目は荒々しい色のままであったが、その顔には笑みが浮かんでいた。
と言ってもそれはいつもの明るく優しい杏寿郎のものではなく、ぞくぞくとするような色気を纏った見た事のない笑みだった。
「…………は…い…。」
杏「うむ。良い子だ。」
その言葉は桜の頭を痺れさせ、そして桜はその感覚が初めてではない事を思い出した。
(初めて愛してもらった時…腰が逃げたり、腕で体を隠したとき…叱られたあと褒められて……、今のと同じ頭が回らなくなるような感覚を……、)
そう考えていると杏寿郎は集中していない事を見抜いて桜の首に思い切り噛み付いた。
「いッ…、」
杏「集中しろと言った筈だが。それとももう仕置きをされたくてわざとしているのか?」
「い、いえ!前に褒められた時にも…今と同じように頭が痺れた事を思い出して…。その後、恋慕ではないからそのように褒めるのではと心配になって相談したのですが…。」
それを聞いて杏寿郎も縛るような約束に至った過程を思い出した。
杏「なるほど。俺の君への恋慕の気持ちは確かだ。その懸念がなくなった今、この躾けられた様に褒められる行為はただ好ましいものだと君は思っているのだろうか。」
そう問われ、桜が ぼっと顔を赤くさせるとそれを肯定と取った杏寿郎はやっといつもの楽しそうな笑みを浮かべた。
杏「そうか!愛いなあ、愛い!!」
杏寿郎はそう言いながら心底嬉しそうに桜の頭を撫でた。