第29章 大神さまの正体と目的、暴力の訳
―――……あなたは人間でしょう…?信仰も得ずに神の力を使って治療をしたの?
(……あっ…………、)
桜は次の言葉を想像した後、頭が働かなくなった。
―――心配しなくても今の時点でそれが継続していないのなら あなたに干渉する意味はない。私があの神に雷を落としたのは罰ではなく行為を止めさせる為だったから。
(…そう、ですか……。)
桜がそうほっとした時、バランサーは変わらない声色のまま言葉を続けた。
―――でも、治療は無かったことにさせてもらうよ。怪我は戻すし、死ぬはずだった人には死んでもらう。うん、一人いるね。
それを聞いて桜は一瞬頭が真っ白になり、次にマンションから落ちた男の子と、杏寿郎が言った『代償』について思い出した。
(杏寿郎さんが言ってた…代償がなければ "出来ない筈" のこと…。私が元いた時代で……あの子は私に助けられた後、また死ぬ。もっと残酷な事になった…私がした事は浅はかで…偽善だったんだ……、)
―――あれ。あなた、一番治してるの自分自身なんだ。…大丈夫かな。
自責の念に苛まれ、桜はその声を聞き逃した。